2014年11月号 Vol.05

日本橋文明論 第5講 もうひとつの土用日

極上 うな重 8,046円

土用の丑の日には鰻を―― 江戸時代の発明家 平賀源内が考案したと云われるこのアイデア、今ではすっかり夏の慣習として親しまれている。一見、季節外れにも思えるこの話題、しかしそこには日本人と鰻にまつわる知られざる逸話と深い絆が存在した。

そもそも「土用の丑の日」とはどのような日なのか。かつて日本では古代中国の思想である陰陽五行説に基づいて季節や時間などを表現していた。「土用日」とは、五行(木・火・土・金・水)の一つで、立春・立夏・立秋・立冬の前日までの18日間のことをいう。「丑の日」とは、十二支でも用いられるように、更に細分化した時期を指している。

つまり、あまり知られていないが、「土用の丑の日」は、夏だけではなく年に4回以上もあるということだ。今年の場合、夏の土用の丑の日は7月29日(火)だったが、秋の土用の丑の日は10月21日(火)と11月2日(日)に該当する。

ちなみに日本の歴史上の記述に鰻がはじめて登場するのは「万葉集」の大伴家持の歌であるが、今のように鰻重(鰻丼)として食されるようになったのは、元禄時代の日本橋に起源があると云われている。

そのせいか日本橋には、老舗の鰻専門店が沢山あり、それぞれ個性的なエピソードに溢れている。渡辺淳一の小説「化身」の舞台にもなった「喜代川」、ラストエンペラー溥儀(ふぎ)の弟溥傑(ふけつ)にも愛された「高嶋家」、創業が寛政年間(1800年)という「大江戸」、数寄屋造りの家屋に個室が落ち着く「日本橋いづもや」などなど、どの店にも通いつめたくなる魅力がある。

さて、蘭学者でもあった平賀源内は、なぜ鰻屋の宣伝コピーを作ることになったのだろうか。夏は鰻がまだそれほど大きく育ってないだけでなく、暑さで食欲を失った人々からも敬遠されがちであった。困った鰻屋に依頼された源内は、今でいう「記念日化」の手法を用いて販売促進PRを仕掛けたのだった。日本人のメンタリティをくすぐる、実に秀逸なコピーであった。

しかし本来、鰻が美味しくなるのは、秋から冬にかかるこれからの時期。身も大きくなり、脂もほどよくのった鰻がおすすめという。

もうひとつの土用日を迎えたこの季節、「日本橋で今が旬の鰻でも――」そんな大人の誘い文句も悪くないのではないだろうか。

うなぎ割烹 大江戸 日本橋本店
中央区日本橋本町4-7-10
平日 11:00~22:00/土 11:00~21:00
☎ 03-3241-3838
日・祝休み
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日々乃 喜績 hibino kiseki
1971年神奈川県生まれ。某企業で広告宣伝と戦略PRを担当する傍ら、さまざまな文化と場面を創る「仕掛け人」の顔を持つ。今年10月には、企画・協力した「上体温のすすめ」(著者今津嘉宏/ ワニブックス刊)が刊行された。
ニホンバシーモ 2014年9月号 vol.04