2015年11月号 vol.11

日本茶とミニマリズム

日本の歴史上、お茶ほど重要な役割を担ってきたものはない。

かつて遣唐使を通して中国大陸から日本に伝来したといわれる「茶」は、その時代やその土地の人々の手によって進化し、日本人の心を体現する「日本茶」に変貌した。

京都で磨かれた「茶」の神髄を、日本橋で堪能するということは、日本人らしさを再発見する神聖な儀式であった。

「茶」に関する日本最古の書物といえば、1211年に栄西(えいさい)により著(しる)された「喫茶養生記(きっさようじょうき)」が有名であるが、栄西は「臨済宗(りんざいしゅう)」を伝えた禅宗(ぜんしゅう)の僧侶としてもよく知られている。のちの時代に、千利休が築きあげた「茶の湯」の侘(わ)びと寂(さ)びは、そもそもが「禅(ZEN)」の精神に由来していたのだろう。

昨今、話題のミニマリストは、日本では、周期的に注目される現象ともいえる。「銀閣寺」や「水墨画」なども、ミニマリズムが体現された日本固有の文化である。

どんなに便利で豊かになっても、日本人が「足りないこと」「過ぎないこと」に美学を感じるのは、深く刷り込まれたDNAに由来するだけではなく、喫茶をする習慣がなせる技なのかもしれない。

寛政2年に京都で創業した「福寿園」は、今では創業者の名を冠したブランド「伊右衛門」があまりにも有名だが、その歴史を辿ると、伝統と革新の繰り返しであったことがよくわかる。現代では、ペットボトルでも気軽に飲めるようになった日本各地の銘茶の数々だが、そのバリエーションは驚くほど広く深い。

さっぱりした後味の煎茶、上品なただずまいの抹茶、名家の主君のごとき玉露などはもちろん、普段我々が口にしたことのないような、宇治茶も揃う。

考えてみれば、ワインが品種や産地・年代、作り手が変わるだけで、まったく異なる趣に変わるのと同じことなのかもしれない。

日本橋三越の福寿園では、多種多様なお茶の世界の深淵(しんえん)をテイスティングすることができる。日本橋散策で疲れた体を癒すには、喫茶養生は最適かもしれない。

そもそも、「茶」には薬効があると考えられていた。元気をだしたり、精神を整えたり、その効用は結構本格的である。

一杯の茶をありがたくいただくことで、余計なストレスを抱えないミニマリストになれるのであれば、日本人でいることに感謝せねばなるまい。

福寿園 日本橋三越本店
日本橋三越本店 本館5F 中央区日本橋室町1-4-1
☎ 03-3241-3311
営業時間はホームページをご覧ください 不定休
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日々乃 喜績 hibino kiseki
1971年神奈川県生まれ。某企業でブランディングを担当する傍ら、さまざまな文化と場面を創る「仕掛け人」の顔を持つ。書籍の企画・協力のほか、雑誌「FUDGE」(三栄書房)では、映画紹介の連載をスタートした。
ニホンバシーモ 2015年11月号 vol.11